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日記17 教科書の謎④

Author: 久遠遼
last update Last Updated: 2025-11-04 19:15:40

翌日、昼過ぎ。

真司から「部活終わったぞー」とメッセージが届き、俺たちは学校近くのファミレスで待ち合わせすることになった。

エリカと一緒に自動ドアをくぐると、店内から冷房の涼しい風がふわっと吹き抜けてくる。

外のじめじめした梅雨の空気が、まるで別世界みたいに感じられた。

店員さんに「先に来ている者がいます」と伝え、奥の方へ進むと――

ドリンクバーを前に、真司ともうひとり、真司より少し背の低い、後輩らしき短髪の男子が待っていた。

「おーう! こっちこっちー!」

真司が豪快に手を振ってくる。

180cm近い長身とがっしりした体格、通る声まで合わさって、見事に店内の注目を集めていたけど……本人はそんなことお構いなしだ。

「やっほ〜、お待たせ〜!」

次はエリカが手をひらひら。

今度は一斉に、こっち側に視線が流れてきた。

……まあ、そうなるよな。

エリカはエリカで、別ベクトルでめちゃくちゃ目立つ。

イギリス人とのハーフで、さらさらの金髪に、空の色より透き通った青い瞳。

スラッとしたスタイルで、顔立ちは“可愛い”と“綺麗”のちょうど真ん中――まさに、見る人の感性次第ってやつだ。

アイドル? 女優? 全然超えてる。

というより、存在がリアリティを超えてる。

当然、店内の男性陣の視線はエリカに釘付けになるわけで――

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